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  • とうほく唯物論【8・9月合併号Vol.1】

吉井酒造煉瓦倉庫で、いま起こっていること。

『AtoZ』プロジェクトで結実するさまざまな思い/青森・弘前

今回で3度実現した、吉井酒造煉瓦倉庫と奈良美智氏との“出逢い”の機会をそもそもコーディネートしたのがキュレーターの立木祥一郎さん。「この煉瓦倉庫の中で奈良さんの作品を見てみたいという素直な思いがきっかけでした」。

「建物はその場所で歳月に磨かれながら存在感を増していく」。まさにそんな表現がふさわしい吉井酒造煉瓦倉庫の外観。『AtoZ』プロジェクトを訪れることができたら、この見事な佇まいもじっくりと堪能したい。

作品の展示スペースとして今回初めて使用されることになった煉瓦倉庫2階は、外観の印象とは対比をなす、暗くひんやりとした空気が広がる異空間の雰囲気。写真は事前取材時のもの。まだ作品が配置されていない貴重なカメラアイ。

長い歴史を経てきたことが一目でわかる、色が微妙に異なるレンガ。どこまでも延々と続く屋根瓦。そして周辺の風景に馴染みながらも、圧倒的な風格や緊張感を無言で伝えてくるような佇まい。青森県弘前市にある吉井酒造煉瓦倉庫は、大正時代に建てられた延べ床面積4,000平方メートルを超える巨大な2階建の建物。今ここで、弘前出身の現代美術家奈良美智氏とクリエイティブユニットgraf(グラフ)によるプロジェクト『AtoZ』が進行中だ。
「3つのサイズの小屋を制作した『S.M.L』展から始まった、奈良さんとgrafとの共同作業の集大成とも言うべきプロジェクトが『AtoZ』なんです」。そう語るのはアート関連のNPO法人harappa(ハラッパ)設立メンバー、そして『AtoZ』実行委員も務めている立木祥一郎さんだ。
「何から何まで全部という意味もあるように、『AtoZ』では大阪を振り出しに東京や横浜などの国内、そしてソウル、バンコク、台北といった海外での展覧会で今までに制作された小屋が再び建てられ、煉瓦倉庫の中に架空の街を形成しています。小屋はそれぞれが現地調達の廃材で造られたもので、その中に飾られる作品を含めた倉庫の空間すべてが、その軌跡を綴った表現になっています」。

戦前は東北最大の酒造所であり、戦後はフランス人技術者を招いて日本で初めてシードル(林檎酒)が醸造された歴史を持つ吉井酒造煉瓦倉庫。しかし奈良氏が幼い頃から身近な光景として好奇心をもち、この大きな倉庫を眺めていた時点では、すでに醸造は終わっており、多くの地元市民と同じように“中はどうなっているのだろうか”と想像することしかできない、謎めいた存在だったという。
「だからこそ“ここで展覧会をしないか”という話が持ち上がった時、奈良さん自身の“向こう側を見てみたい”という純粋な興味も高揚していったのだと思います」。
ドイツに在住し制作を続けていた奈良氏は、2000年に久しぶりに里帰りし、初めて倉庫の中に足を踏み入れた。その時、青森県立美術館のキュレーターとして両者を引き合わせた張本人が立木さんだったというわけだ。

奈良美智氏が語る吉井酒造煉瓦倉庫

 

昔は高さ2メートルくらいの黒壁で覆われていたんですよ、周りが。でね、その向こうに巨大な煉瓦倉庫が見えてた。だから僕を含めて、あそこら辺に住んでた子供たちにとっては謎の場所でしたね。そのうち、高校とか行くようになった頃には興味も薄れて、僕も東京とかドイツとか行って、忘れたというか考えることもなくなっていったんです。ところが2000年、横浜の展覧会の準備のために帰国した時、ギャラリーの人(小山登美夫氏)から聞かされたんです。「弘前の人からウチで展覧会をやってほしいと電話があった。煉瓦倉庫って言えばわかるはずだから」って。その瞬間“中に入ってみたい”って、子供の時の気持ちにタイムスリップしたんです。弘前は巡回の予定がなかったんだけど、僕自身、展覧会やるというより謎だった場所に足を踏み入れたい一心で。で、いざ見たら“できるならここでやりたい!”と。結局はそれが2002年の『I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.』展で実現したんです。終えてみると、最初から煉瓦倉庫でやるために(展覧会を)持ってきたんじゃないかなと、僕も参加してくれたみんなも自然に思えました。僕は弘前生まれだから、言ってみれば僕の作品ももともとは弘前出身。だから、みんなここに戻ってくるために煉瓦倉庫はずっとあったんじゃないかって。そんな仕組まれていたような運命を感じました。

What is 『AtoZ』?

『AtoZ』プロジェクトとは。

2003年にgrafとの共同制作『S.M.L』展から始まった、奈良美智氏の作品を「小屋」で展示する表現活動の集大成と言えるものです。小屋は今までに国内外のさまざまな場所で現地の廃材を利用して作られてきましたが、制作には場所ごとに多くの現地ボランティアも参加してきました。その小屋たちが一堂に集結します。

取材協力

YOSHITOMO NARA + graf AtoZ
http://a-to-z.heteml.jp/
NPO法人harappa
http://www.harappa-h.org/
立木祥一郎氏
奈良美智氏

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