ホーム > 環の肖像 > TOP > Page 2

1 | 2 | 3 | 4
 

りんごの無農薬栽培を模索する中で辿り着いたのは、ふんわりとやわらかな自然の状態の土を再現するという答え。「それまではさ、どっかに何か答えがあるはずって、地面から上の方ばかり見てたんだよね」。

 

りんご作りの“常識破り”となる無農薬栽培の道を選んだ木村さんは、農薬散布をやめて2ヶ月あまりの頃、自分のりんご畑で驚くべき光景を目の当たりにする。

「ものすごい数の害虫なんですよ。そりゃそう。だってウチだけが農薬をやってないわけだから、害虫から見たら“パラダイス”でしょ(笑)。そのうち細菌の病気も出始めて、秋には700本のりんごの木の葉がすべて落ちてしまってね。葉っぱが地面に落ちる音、聞いたことあります? 耳を澄ませると大きな音がすんのよ。あれ、怖くていやな音だね。今でも夢に見るからね」。

こうして木村さんは、まさに命を懸けてりんごの木と対峙していくこととなる。花も咲かず、実もつけないりんごの木にやって来る無数の害虫を一匹一匹手で取り除き、それをスケッチしては図書館で独学で駆除方法を調べる。また、無農薬栽培に関連する資料を読んで、他の作物では有効とされる方法をいろいろ試す日々も続いた。実は木村さんはこの頃すでに、無農薬の野菜づくりには成功していたのだ。

気づいたことは書き留め、わからなかったら独学で知識を育んできた木村さんの足跡が窺える、チラシの裏面を使ったメモ。「野菜も米も無農薬に成功してたから、なぜりんごだけうまくいかないんだろうって毎日だったね」。

 

「家の前で1本ずつ作ってた梨も桃も葡萄もよ、とっくに無農薬で成功してたから、絶対りんごでもうまくいくはずだと思ってさ。ところがよ、りんごは何をやってもダメなわけさ。“何か答えがあるはず”って思って、自分で考えるしかなかった。だってどこにも書いてなかったし、訊く相手もいないし」。

“なぜりんごだけ上手くいかないのか?”という疑問だけが深まっていく中で年を重ね、やがて1個もりんごを収穫できないりんご農家は苦境に追い込まれていく。木村さん自身もキャバレーの呼び込みなど何でもやって生活費を捻出したが、5年目にはとうとう、りんごの木が枯れ始めた。

害虫を調べる際など、当初はスケッチだったが現在はデジカメに。「害虫ってさ、よく見ると顔が優しかったりするんだよね。それに比べて益虫の顔は怪獣(笑)。この違いも、彼らなりに自然の中で生き抜く知恵なのかなってさ」。

「自然の土ってさ、いろんな匂いがするけどすぐに消えちゃうんだよね。で、雑草の根がしっかり入り込んでる分、やわらかいから固まらない」。木村さんのりんご畑の土は、どこでも手で簡単に掘り起こすことができる。

「生きるために雑草まで食べさせた家族に申し訳ない気持ちとか、何をやってもダメだった情けなさとか、いろんな思いが巡って“死んでお詫びしよう”と一人で岩木山に向かったんです。そしたらふと、自生しているりんごの木が目に入ってさ。“なんで害虫にやられないんだろう?”と思った瞬間、あっと直感して、気づけば雑草の中に分け入って木の下に辿り着いていたんですよ」。

木村さんが駆け寄ったのは、りんごの木に枝ぶりが似た野生のドングリ。ふわりとした根元の土を掘り起こすと予想通り、とてもやわらかだった。

「土を嗅いでみると、バクテリアとか菌とかがしっかり生きてる匂いがしてね。それに引き替え、自分のりんご畑の土は固くて無臭。そうか、この自然のままの土の状態を自分の畑でも再現すればいいんだと、そう確信したんですよ」。

次のページへ

1 | 2 | 3 | 4