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「体験学習にやって来る子どもたちの姿を見ていると、当たり前だけど“体験”って大事なことだと感じますね。海に来ると、例えば“いろんな生き物がいるんだな”とか“海水はしょっぱいな”とかがわかる。最近、コンピューターやゲームの世界などバーチャル流行りみたいなところがあるけど、世の中は生身の人間同士がつながっているんですよね」。畠山さんのもとを訪れた子どもたちは、もう1万人を超えているという。

京都大学フィールド科学教育研究センターで、畠山さんが社会連携教授として教壇に立つ森里海連環学は、「森は海の恋人」運動と連携した新しい統合科学。作家のC.W.ニコル氏とともに二人、称号を受けた。

「講義の時は、基本的に全学部の学生が集まってくるんですが、特に熱心なのは法学部の連中ですね。その姿に頼もしさを感じています。だって将来、法律の道に進む可能性が高いわけでしょ。環境に関わる法律も、そういう人間たちで作られていったら安心できるじゃないですか。もちろん他にも、森と海との関連性を実際に体験して連環学を身につけた若者たちのうちからは、各省庁を担っていくキャリア組も出てくるはず。なにせ京大ですから(笑)。そういう若手が今後、続々と社会に出てくれれば、日本も大丈夫なんじゃないかって」。

一方で、話を牡蠣の養殖に戻すと、畠山さんの養殖筏(いかだ)が並ぶ舞根湾(もうねわん)では、養殖作業に勤しむ80代のお年寄りの姿もふつうに見られるという。

「みなさんが、養殖の仕事をあてにしながら楽しんでいるんですよ。よく漁村や農村では“稼げないから若者が離れていく”なんて言われるけど、ここには若者も老人もいるし、みんな元気で頑張っている。なにせグリコーゲンの固まりみたいな栄養いっぱいの牡蠣を食べてるからね。もちろん、環境問題に一生懸命取り組むのは大事だけど、その前に食えなくちゃ意味がない。大事なのは“環境経済学”って考え方なんです。ここでは森と川と海のおかげで立派に生活が成り立っている。だから跡取りの心配とか少子化問題もない。つまり“牡蠣は人類を救う”ってことですね(笑)。知れば知るほど、今また牡蠣に惚れなおしている感じです」。

地元で生まれ育ったひとりの人間が、家業を継ぎ、次の世代へバトンを渡していこうとした中で始まった数々の取り組み。畠山さんは常に探求心を持ち“なぜそうなるのか”という疑問を発見しては、学びが連鎖する醍醐味に引き込まれながら次なるテーマへと向かっていく。

「世界の光合成の50%を担っている植物プランクトンが大気中の二酸化炭素を吸収するので、もっと増えれば地球温暖化の最大の対策になる。そのためには鉄の供給が不可欠であるという『鉄仮説』を唱えた、アメリカのジョン・マーチン博士という人物がいるんです。そのことを調べていくと、世界の海は場所によって海水中の鉄濃度が大きく異なることがわかったりする。なぜか。それには黄砂のような大陸から鉄を含んだチリが海に飛んでいるからです。また海流を生み出す“風”が関与してるんじゃないかと、疑問や自分なりの仮説が次々とつながって、今は『風塵学』も勉強しています。最初は牡蠣のためだったはずなのに、松永教授と出合ってフルボ酸鉄の存在を知り、それが鉄仮説につながり、今度は風塵学にたどり着いている。まあ、ずっとこんな調子で忙しいんですよね(笑)」

■取材協力

畠山 重篤氏
畠山 信氏
牡蠣の森を慕う会
有限会社 水山養殖場

■参考文献

『森は海の恋人』(畠山重篤著/文春文庫)
『漁師さんの森づくり 森は海の恋人』(畠山重篤著/講談社)
『森が消えれば海も死ぬ 陸と海を結ぶ生態学』(松永勝彦著/講談社)
『鉄理論=地球と生命の奇跡』(矢田浩著/講談社)
『森里海連環学』(京都大学フィールド科学教育研究センター編/京都大学学術出版会)

「身が付いている深い殻の方を“カップ”と呼ぶんですが、どうですか、いいデザインをしてるでしょう。ここまで器が深いと牡蠣殻についたまま出すオイスターバーなんかでも重宝されるし、もともとフランスではデザインで値段が決まるとまで言われているんです。この牡蠣殻を生み出すまで20年くらいかかったんですよ」。畠山さんが育てた牡蠣は『青葉がき』という商品名で出荷されている。

「もともと自分は生き物と接するのが好きだったから、その延長で当然のように家業を継いだ感じですかね。やっぱり小さな頃から体験してきたことが大きかった。今は5歳の孫に魚釣りとかを教えてますが、もう釣り針のテグスが巻けたり、向こうも興味津々で真剣ですよ。アニメのキャラクターとかじゃなく“カレイが好き”って言ってるくらいですから(笑)」。

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